ラードの海に溺れて

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仕事の振り返り

 今の仕事に就いてから、半年と少し経った。

 

 今やっていることは、ざっくり言うと新規開拓営業だ。商材を具体的に言うと特定されかねないのでそこは想像に委ねるけれど、「営業」と耳にして普通の人がイメージするような内容で基本的には間違いない。ネガティブな面も含めて。

 

 ただ今の商材の重要な点をあえて一つ述べるとしたら、買って終わりの商材ではないということだ。受注した顧客はカスタマーサクセスにトスアップする。商材を説明する時は、「カスタマーサクセスに身を委ねるように」と“放言”する人間もいる。競合他社よりも導入コストが高額なのは、カスタマーサクセスあってこそのものだから。

 

 ただ言ってしまえば、カスタマーサクセス部門にはそちらのキャパシティがあり、顧客の数に対応した十全な体制があるかと言えばそうではない。そして受注後の顧客の予後については定量で測ることが出来るけど、全員が全員成功しているわけではない。

 導入後の業績アップは、結局顧客が適切な走り出しが出来るかどうかにかかっているのだ。

 包み隠さず言えば、走り出せていない顧客に対して出来ることは、カスタマーサクセス部門からしてもほとんどない。だからこそ、新規開拓の我々が導入初期のロードマップを顧客のために提示する必要がある。

 しかし、我々に求められているのは新規受注の件数か、あるいはどれだけ高いプランを受注したかということで、新規顧客の予後についてはそれほど求められている訳ではない。顧客の予後について全く顧みない人間も多い…というか、顧みている人間のほうが少数派だ。

 だって、提示なんかしなくても取れる案件は取れてしまうのだから。

 

 入社して暫く経ってから、そんな流れで受注した顧客の予後を初めて定量で見た時は愕然とした。

 どの顧客も、経費をペイ出来ていないのだ。伸び率を見ても、少なくとも初年度で回収するのは難しい。顧客の成果物を見ても、成功する見通しはあまりないというのが正直な感想だった。

 

 それを目の当たりにして、自分の仕事は本当に正しいのだろうかと考えた。

 

 先に述べたように、我々が求められている成果はあくまでも新規受注の部分であって、誤解を恐れずに言えば、顧客の幸せはミッションには含まれていない。この話の根底にあるのは、私の好みの話でもある。

 

 営業職の会社員の立場から言えば、顧客には顧客の都合があり、我々には我々の都合がある。営業がやっていることは結局、そことの擦り合わせを無限にやっていくことだ。ソリューション営業でも対人関係の原理原則は変わらない。こっちの都合で、こっち主導で物事を進めていくこともしょっちゅうある。

 そこにジレンマを感じて、結局昇華出来ずに職を辞していく人間もいるようだった。

 

 私が今の職場に入るにあたって、世話になったキャリアコンサルタントがいる。

 バックアップを受けていた時期は、まあめちゃくちゃに詰められた。「そんな受け答えで面接が通るか」「自身に対する掘り下げが全く足りていない」「君はいったいどうなりたいんだ」「何を実現したいんだ」と散々な有様で、キャリアコンサルタントから問いかけられたことにまともに答えられないことも常だった。

 しかし、その人は私をガン詰めしつつも、「自分の顧客にはより良い人生を歩んでもらいたい」とも言っていた。とりあえずその言葉を信じることにした。

 

 そうして入社してから他の人材会社を経て入ってきた同僚を目の当たりにして、当時のコンサルタントがやっていたことの意義に立ち返った。

 経歴がズタズタじゃない限りは(私はズタズタだったけれど)、事業拡大の志向がある会社であり、且つ実績もその会社の業務内容と乖離していなければ、面接の要点を抑えれば入社には持っていけるとは思う。

 求職者の顕在ニーズはそのままに、面接のポイントを守るよう徹底すればいい。それでも生半可なことではないとは思うけど。

 そうして入った人間は、1 on 1で何を言うのかというと、「他所より給料が比較的いいから入ったものの、何をすればいいのかわからない。何を目指せばいいのか分からない」だ。この部分は、経歴がまともであればあるほど見えにくい部分だ。

 そういった意味では、私のスタンスは入社前から一貫していた。私は入社してしばらくのあいだは、みんなそういうもんなんだろうと思っていたけど、その後の上司との1 on 1で「ここにアサインされている同期の中で一番軸がぶれない」と言われた時に初めて気がついた。みんながみんな、定まっているかと言えばそうでもない。

 

(恥ずかしい話だが、私のケースでは経歴のこともあり、スタンスの因数分解をしないと煮ても焼いても食えなかったと思う。営業になって、工数は金で買えない貴重なものだと身に染みた。けっこうな工数をかけさせてしまって、当時は本当に申し訳なかったと思う。)

 

 自分が目指したいものが明確じゃない人間は道に迷う。自らが目指すべき天王山の頂上がはっきりしていれば、それまでに至る道が険しくても、「この険しい道のりをどう乗り越えていくか」「どの道具を使えばより効率的に登頂できるのか」ということだけを考えればいい。“迷い”の質が全く違う。

 目指したいものが不明瞭な人間は分岐点で都度迷う。日々の進捗も鈍化する。挙句、自分が今歩いている道が正しいのか分からなくなって、コースから外れていくのだ。その瀬戸際に立っている同僚は今たくさんいる。

 

 顧客には理想があり、現状があって、なおかつそこにギャップがある。そこのギャップをどう埋めるかを提案するのが営業の楽しさだけど、またそれ以前に、顧客が持っている理想をどう深掘するのかが営業の価値だし、本当の意味での顧客開拓だ。ただの御用聞き営業と、 “営業”を分ける境界線はそこだとも思う。

 

(相手が最初から顕在ニーズ丸出しでも、理想の再認識は徹底するようにした。迂遠にも見えるが、再認識させた顧客は判断軸にブレがなくなるから、実際的な話をすれば、契約手前でちゃぶ台返しを食らうリスクを極力減らすことができる。)

 

 そういう意味では、本当に有能なコンサルタントに世話になった。営業の先輩として今でもたまに連絡を取っている。私が社内で表彰された時も報告させてもらったりした。表彰台に立てた今の自分がいるのは、その人がいたおかげだ。

 

 話が脱線した。

 同僚含め我々が実践する営業も、「理想」を再認識させて、現状とのギャップを埋めることに違いない。ただ他の大多数が「受注」をゴールにするのに対して、自分のこの仕事におけるゴールを「顧客の幸せ」に明確に設定し、理想を深掘りしつつも、理想と現実のギャップをどう埋めるか、を顧客の目線で考えるよう徹底した。商材の説明に時間を割くよりも、ビジネスの話を相手の目線でするようになった。あくまでも主体は我々ではなく、顧客だからだ。

 そしてどうなったか。

 ものすごく具体的に言えば、数字が堅調なのはそうだが、アップセルの提案にもビビらなくなった。私には貴社の事業の勝ち筋が見えている、だからこの上位プランが適していると確信を持って伝えられるようになった。

「アップセルならこいつに訊け」と同じ部署内で語られるようになり、表彰にもつながった。

 

 受注後の顧客が、カスタマーサクセスにトスアップした後もたまに連絡をよこしてくれることがある。

定量で成果が出た。提案を受け入れて本当によかった」

「あなたが言っていたノウハウを落とし込みたいのだが、どうしたらより効果が出るか」

 限られた時間の中で成果を出さなければいけない新規開拓営業にとっては、客観的に見れば蛇足とも言える問い合わせだが、ここにも出来る限り時間を割く。自分の提案へのフィードバックでもあるためだ。

 成功例と失敗例を、自分の言葉で新規顧客に語れるようになる。ギャップを埋める方法が確固たるものになれば、それは新しい顧客にとっても糧になる。

 仮に、たった今、商談相手の会社に事業責任者として転職しても結果が出せるか、というところまで突き詰めれば熱も入った。

 

 元リクの先輩から、「知識をつけすぎるとバカになる」と言われたことがあるが、これは正しい。生半可な知識は自分の目を曇らせるからだ。新規顧客開拓で目が曇れば進捗が鈍化する。

「この顧客は成功するか否か」を無意識のうちに勝手に判断するようになってしまい、例えアポにつながったとしても、商談への熱量も低くなる。

 先輩の理論で言えば自分は馬鹿丸出しだが、この路線でも突き抜ければ、ポテンシャルは低くないかな程度の個人事業主でも、短期間で初期費用の数百倍のリターンを齎すことが可能である、という結果を出せた。

 顧客にとっての幸せが、自分の基盤を築き上げていくことにも繋がっていると感じている。

 あとはこれを継続できるかどうかだ。

 

 話がまとまらないので、そろそろ総括しよう。

 伝えたいポイントを並べると以下の3つになる。

 

1.  現状はどうか。目指すべきものは明確か。

 (明確でないのなら、掘り下げが足りているか。自分の過去を振り返ったときに、岐路に立った際の自分の選択を根拠を持って説明できるか。それすらもあやふやな時は、当時の環境や状況から当時の選択の根拠を検証できるか)

2.  現状と目指すべきものの間にあるギャップは何か

(今はどんな選択肢を選び取っているのか。今の自分の選択を、方向性・割けるリソース・継続可能性の各方面から検証できるか。他によりよい選択肢はないか)

3.  ギャップを埋めるために、今何をすべきなのか。

(第三者として、ギャップを埋める為にどういったバックアップができるのか。主体が自分自身なら、どういったバックアップを求めるべきなのか)

 

 商談でも、ひとりの人間とっても重要な指標は結局この3つに集約される。

 入社して暫く経ったけど、結局入社前に世話になったキャリアコンサルタント、もとい営業の先輩が実践していることの裏付けが明確になっただけな気がしてきた。

 ただ本当に難しいのは、「そうある」ことよりも「そう在り続ける」ことだとも入社して身に染みた。

「そうある/なる」ことは瞬間風速的にはどうにかなっても、「そう在り続ける」為には自分に対するマネジメントが確立していなければ難しい。人の体力は無限には続かないから。

 

 表彰を受ける少し前から、仕事に対して少し息切れし始めたから立ち返るためにこのエントリを書いた。

 自分はこれからも「在り続ける」ことが出来るんだろうか。